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山口地方裁判所岩国支部 昭和38年(わ)87号 判決 1964年6月27日

被告人 吉永信一

明三五・五・二八生 林業

前田信夫

大七・六・一五生 農業

主文

被告人両名を各懲役四月に処する。

但し被告人両名に対し本裁判確定の日から各三年間右各刑の執行を猶予する。

訴訟費用中証人多田武夫・同由本茂雄・同林弥作・同内山浅一に支給した分は被告人両名の連帯負担とし、証人吉川伴助・同尾崎周市・同村上留治・同岡崎一雄に支給した分は被告人前田信夫の負担とする。

理由

(犯罪事実)

被告人両名は、昭和三八年四月一七日施行の山口県議会議員選挙に際し玖珂郡から立候補した堀江正夫の選挙運動者であるが、両名共謀の上、右候補者に当選を得しめる目的をもつて、何れも玖珂郡錦町大字広瀬の右候補者選挙事務所において

第一、昭和三八年四月三日頃から同月一六日頃までの間一三回(三・四・五・六・七・八・九・一〇・一一・一三・一四・一五・一六の各日頃)にわたり、右候補者の選挙運動者由本茂雄に対し、右候補者のため投票取纒め等の選挙運動に従事することの報酬として現金四〇〇円宛(合計五二〇〇円)を供与し

第二、同月三日頃から同月一六日頃までの間一一回(三・四・五・六・一〇・一一・一二・一三・一四・一五・一六の各日頃)にわたり、右候補者の選挙運動者林弥作に対し、前同趣旨の下に現金四〇〇円宛(合計四四〇〇円)を供与し

第三、同月四日頃から同月一六日頃までの間一一回(四・五・六・七・八・一一・一二・一三・一四・一五・一六の各日頃)にわたり、右候補者の選挙運動者内山浅一に対し、前同趣旨の下に現金四〇〇円宛(合計四四〇〇円)を供与し

第四、同月五日頃から同月一六日頃までの間一〇回(五・六・七・八・九・一〇・一一・一三・一五・一六の各日頃)にわたり、右候補者の選挙運動者吉川伴助に対し、前記由本・林・内山等を介して、前同趣旨の下に現金四〇〇円宛(合計四〇〇〇円)を供与し

第五、同月五日頃から同月一六日頃までの間四回(五・六・一四・一六の各日頃)にわたり、右候補者の選挙運動者尾崎周市に対し、前記由本・林・内山等を介して、前同趣旨の下に現金四〇〇円宛(合計一六〇〇円)を供与し

第六、同月六日頃から同月一六日頃までの間七回(六・八・九・一〇・一一・一三・一六の各日頃)にわたり、右候補者の選挙運動者村上留治に対し、前記由本・林・内山等を介して、前同趣旨の下に現金四〇〇円宛(合計二八〇〇円)を供与し

第七、同月六日頃から同月一四日頃までの間四回(六・九・一二・一四の各日頃)にわたり、右候補者の選挙運動者岡崎一雄に対し、前記由本・林・内山等を介して、前同趣旨の下に現金四〇〇円宛(合計一六〇〇円)を供与し

たものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人両名の判示各所為は何れも公職選挙法第二二一条第一項第一号・刑法第六〇条に該当する(右各供与は、各受供与者において選挙運動に従事した日の各夕刻になされてはいるが、各受供与者は、時に日を隔てたことはあつても、選挙運動期間を通じての継続的選挙運動として当初からこれに従事したもので、各日毎の選挙運動が他日のそれとは別個の運動として完了したものではなく、本件各供与も右完結を前提としてなされたものではないと認められるから、公職選挙法第二二一条第一項第三号の事後供与罪には該らず、受供与者が一連の継続的選挙運動に従事しているのに並行して逐日その報酬の供与がなされたものとして、同項第一号に該り、かつそれ故に受供与者毎に包括して一罪を構成するものと認めるのが相当である。)ので、所定刑中各懲役刑を選択し、右各罪は被告人両名につき何れも刑法第四五条前段の併合罪となるから、それぞれ同法第四七条本文・第一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をなし、その刑期の範囲内で被告人両名を各懲役四月に処し、情状に鑑み何れも刑の執行を猶予するのを相当と認められるので、同法第二五条第一項第一号を適用して本裁判確定の日から各三年間右各刑の執行を猶予することとし、訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項本文・第一八二条に則り主文第三項掲記のとおり被告人等に負担させることとする。

なお弁護人は判示第一の事実につき、その供与の相手方たる由本茂雄が公職選挙法第一九七条の二第三項の規定により報酬を支給し得る選挙運動のために使用する事務員として県選挙管理委員会に届け出られていることを理由に、同人の選挙運動に対する報酬の支給は罪とならない旨主張する。しかしながら、右届出のなされていることは山口県選挙管理委員会岩国地方事務局長作成の捜査関係事項照会書回答によつて明らかであるけれども、右由本茂雄をはじめとする前掲各証人の供述および被告人等の供述調書を総合すると、右由本は候補者・総括主宰者等から雇われたのではなく、候補者の当選に寄与することを直接の目的として進んで選挙運動に関与するに至つたもので、すでに告示前に選挙運動の中心となるべき者によつてなされた協議に加わつて自己の分担を定め、選挙運動期間中は前記林・内山等と共に選挙事務所にあつて他の選挙運動者を指示し選挙区内を投票依頼に歩かせて投票の取纒めにつとめ、あわせて選挙応援者との応対・選挙情報の収集や、前記判示第四ないし第七事実記載のような違法な買収行為を含む金銭の授受の取次にあたる等、主として選挙運動に固有の用務にその推進機関の一員として従事したものであることが認められる。されば右由本と候補者・総括主宰者等との間に、使用し使用される関係はなく、また右由本が選挙運動に従事した態様およびその仕事の内容は、選挙運動に附随する事務的用務の処理機関たることを本来の担当任務とすべき事務員としてのそれではないものといわなければならない。従つて同人は公職選挙法第一九七条の二第三項がこれに対する報酬の支給を認めた「選挙運動のために使用する事務員」に該らず、前述の選挙管理委員会への届出がなされていても、これに対し選挙運動に従事することの報酬を支給し得べき限りでない。前記弁護人の主張は、選挙運動に従事する者の中に選挙運動のために使用する事務員に該るものとしからざる者との区別があることを前提として前者に対してのみ報酬の支給を認めた法の建前を無視し、選挙管理委員会に事務員として届け出てさえあればすべての選挙運動者に報酬を支給し得べきものとする独自の見解であつて、これを採用することはできない。

(以上により主文のとおり判決する。)

(裁判官 横山長)

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